2021年10月8日
ポイント
●カイラルアノマリー公式の拡張に成功。
●Type-IIワイル半金属における正と負の縦磁気抵抗効果の発生メカニズムを解明。
●磁気センサやスイッチングデバイスへの応用に期待。
概要
北海道大学電子科学研究所の近藤憲治准教授らの研究グループは,ワイルコーンの傾きを考慮したモデルハミルトニアンを用いることでカイラルアノマリー公式を拡張することに成功しました。
ワイル半金属はワイルコーンと呼ばれる線形のエネルギー分散を持ちます。このワイルコーンの傾きの強度に応じてワイル半金属はType-IとType-IIの2種類に分類されます。また,ワイルコーン周辺の電子はカイラリティを持ちますが,通常では電荷が保存されるように,ワイル半金属内部で保存されています。しかしながら外部から磁場と電場の両方を印加することで,保存しなくなるカイラルアノマリーが生じ,それに起因してType-Iワイル半金属は負の縦磁気抵抗効果を示すことがよく知られています。さらに近年,Type-IIワイル半金属が負のみならず正の縦磁気抵抗効果を示すことが明らかになりました。
Type-Iワイル半金属における負の縦磁気抵抗効果発現のメカニズムは,ワイルコーンの傾きを考慮していない従来のニールセン氏と二宮氏が提案したカイラルアノマリー公式で説明されてきました。しかし,Type-IIワイル半金属が示す正と負の縦磁気抵抗効果は,Type-IIワイル半金属におけるワイルコーンが傾いているため,従来の公式を用いて説明することは不可能でした。
この問題を解決するため,研究グループは,二つのワイルコーンを持ち,その傾きを考慮したモデルハミルトニアンを用いることで従来のカイラルアノマリー公式の拡張に取り組みました。具体的には,二つのワイルコーンが同じ方向に傾く場合と互いに向き合う,または互いに反るように傾く場合の2通りを考え,それぞれの場合に対応するカイラルアノマリー公式の導出に成功しました。
今回の発見はワイル半金属におけるワイルコーンの傾く方向や傾きの強度から正と負のどちらの縦磁気抵抗効果を示すか見積もることができることを意味しており,将来,ワイル半金属を磁気センサやスイッチングデバイスへ応用する際の手助けとなることが期待されます。
本研究成果は,2021年9月29日(水)公開のApplied Physics Letters誌にオンライン掲載されました。
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ワイルコーンの傾きを考慮したカイラルアノマリー公式。ここで,vdiffとvsumはそれぞれ二つのワイルコーンの傾きの強度の差と和を意味し,これらの項が新たに加わった修正項である。